マルクス兄弟   〜史上最強のナンセンス・ギャグ〜
マルクス兄弟(Marx brothers)は1900年代初頭から1940年代末期にかけて活躍した4人組のコメディアン。
彼らは本当の兄弟で、1920年代までは主にボードビリアンとしてアメリカ各地を舞台巡業していた。
トーキーの到来とともに兄弟は映画界入りし、
1929年の「ココナッツ」から1949年の「ラブ・ハッピー」まで13本の作品を残した。

左からグルーチョ、チコ、ハーポ、ゼッポ(ゼッポは「カモ」を最後に引退)
彼らの魅力は何といっても、
凄まじくナンセンスでアナーキックなギャグ。
やることなすことバカバカしさの極致なのだ。

マルクス兄弟はもともと5人だった。
そのうちガモ・マルクスが抜け、映画界入りしたのは
グルーチョ、チコ、ハーポ、ゼッポの4人。
5本目の作品「我輩はカモである」を最後にゼッポが抜け、
マルクス兄弟は3人になるのだが、
この3人(グルーチョ、チコ、ハーポ)が
筋金入りの曲者なのだ。
(一般にマルクス兄弟と言えばこの3人を指す。)
まず、兄弟のリーダー的役割を担っているのがグルーチョだ。
墨で描いた真っ黒な口ひげ。腰をかがめ、
葉巻を銜えながら登場したが最後
グルーチョのマシンガントークは映画が終わるまで止まらない。
しかも他人の悪口かギャグしか喋らないのだ。
そのくせ何故か弁護士だったり大学教授だったり、
はては国家元首だったりする。これではたまったもんじゃない。

この喋る核弾頭・グルーチョをギャフンと言わせることの出来る
ただ一人の男、それがチコ。
山高帽を被り、笑顔でグルーチョや他の出演者に寄っていっては
独特のイタリア語訛りの口調で、
グルーチョ以上にトンチンカンなことを言う。
しかもチコはグルーチョと違っていたって純粋でイイ奴、
つまり馬鹿なのだ。
グルーチョの意味不明な会話をさらに混線させ、
二度と解けなくしてしまう。


そして最後にハーポ。実はこいつが一番の曲者かもしれない。
彼はマルクス兄弟の13本の映画で一度も口を聞いたことが無いのだ。

(※彼の発した声は「珍サーカス」のクシャミだけ)
ブロンドのチリチリヘアーにシルクハット。
大きな目を絶えずクリクリさせ、
女の尻を追っかけている。
彼のダボダボコートの内側はドラえもんもビックリの
四次元空間が広がっていて、
トンカチ、生魚、消火栓、ホットコーヒー、アザラシ、
なんでもかんでも入っているのだ。
このデタラメ極まる3人が残した映画はどれもクレイジーなギャグに満ちている。
彼らの映画歴は1934年の「我輩はカモである」までのパラマウント時代と
「オペラは踊る」以降のMGM時代に分けられる。
どちらも”マルクス流ギャグ”の本質は変わらないのだが、
オススメは断然パラマウント時代の作品群。
とにかく、兄弟たちが容赦なく映画をメチャメチャにしているのだ。
未見の方は、この意味不明、
シュールでナンセンスなパラレルワールドを是非体験して欲しい。

僕のイチオシは「我輩はカモである」と「御冗談でショ」の2本。
グルーチョが軍事国家の独裁者になる「カモ」はマルクス映画の中でも
一番有名だが、1934年の公開当時は受けなかったらしい。
あまりにもメチャメチャ過ぎて観客がついていけなかったからだ。

マルクス映画の殆どは、ミュージカルのシーンがある。
それ以外にも、グルーチョの歌とヘンテコな踊り、
チコのピアノ(指をイモムシのように動かす独特の奏法)、
ハーポのハープ演奏(ハーポは屈指の名ハープ奏者)
が本編のどこかで必ず入る。マルクスファンには
至福のひとときなのだが、「カモ」だけは唯一チコと
ハーポの演奏シーンがない。これが少し不満。
ただ、面白さでは「カモ」が群を抜いているので
マルクス初体験は「我輩はカモである」がいいと思う。

マイベスト・マルクス映画は「御冗談でショ」です。
「カモ」で彼らのトリコになってしまった方は
こちらも必見!


マルクス兄弟のギャグ、特にグルーチョとチコのセリフのギャグは
英語力が相当堪能でないと分かりづらい。簡単なダジャレぐらいは
僕でも分かるんだけど、大半が理解できない。(現在発売されている
DVDの字幕は相当ひどい・・・。特にパラマウント期)
ここが我々日本人には少し辛いところだ。
しかし!そんなことで彼らの魅力が尽きるはずもない!
もうこの3人を見ているだけで面白いのだ。楽しすぎるのだ。

具体的なギャグをここで説明するのは控えよう。それこそナンセンスだ。
ヘタなこと書いたら、たちまち僕はグルーチョとチコに身ぐるみ剥がされ、
ハーポに首チョンパされてしまうだろう(笑)
最後に、彼らのフィルモグラフィーと僕の簡単な感想を書いておきます。

「ココナッツ」(1929年)
                             オススメ度−−−−−
記念すべき映画進出第1作。大ヒットした彼らの舞台をそのまま映画にしたもの。未見。

「けだもの組合」(1930年)
                          オススメ度★★★★−
こちらも舞台のロングラン喜劇の映画化。のちにグルーチョのテーマ曲になる
「ミスタースポルディング万歳」、彼のヘンテコ踊りが笑える。
ハーポが彫像をピストルで撃つと、像が撃ちかえすというシュールさ。
絵画すり替えシーンのチコとハーポのドタバタ、グルーチョとチコの珍問答
(「隣に家がなかったら?」「建てればいいよ」の会話はサイコー!)などなど全編が見所。
ただ、ちょっと尺が長くダレてしまうのが難。オチは全ての作品中いちばん好き。

「いんちき商売」(1931年)
                          オススメ度−−−−−
この3作目にして初のオリジナル脚本となった。未見。

「御冗談でショ」(1932年)
                          オススメ度★★★★★
4人の兄弟たちが、主題歌の「エブリワン・セイ・アイ・ラブ・ユー」をそれぞれ違った歌詞で歌うのが
楽しい。(ハーポはもちろんハープのみだが)。特にチコ。なんつー歌詞だよ!
床ブチ抜きのムチャクチャさ、チャックで閉じるバナナ、講義が戦争になるシーンなどなど、
面白シーンてんこ盛り。とても語り尽くせん!超オススメ。

「我輩はカモである」(1933年)
                       オススメ度★★★★★
マルクス兄弟にとって意味のあるものは全て攻撃対象。
彼らの歩いた跡にはペンペン草も生えやしない。
72年も前に、これほどまでにアナーキーなことを平気でやってのけたコイツラはなんなんだ!?
マルクス兄弟の代表作。超オススメ

「マルクス兄弟 オペラは踊る」(1935年)
                オススメ度★★★★−
「カモ」の興行的失敗でパラマウントから干された兄弟はMGMに移り、敏腕プロデューサー、
サルバーグのもとで”大衆により受ける映画”を作り上げた。
確かに、以前の作品とはまるで違う。ストーリーが骨太で、話に筋道が通っている。
そして、マルクス兄弟のイメージを”人助けをする気のいい奴ら”に定着させることに成功した。
ファンには賛否両論の後期作品群だが、僕は最近になって「こーいうマルクスもアリだな」と
思い始めた。だって面白いもん。

「マルクス一番乗り」(1937年)
                       オススメ度★★★★☆
MGM期の作品では「オペラ」が最高傑作と言われているが、自分はこっちの方が好き。
チコがグルーチョをカモにするアイス屋さんのシーンも楽しいし、なんつっても黒人とハーポが
踊り狂う最高のミュージカルシーンがある!
マーガレット・デュモンがオモチャにされる手術室のシークエンスはメチャ面白い。

「ルームサービス」(1938年)
                        オススメ度−−−−−
駄作とのウワサがあるが・・・?未見。

「マルクス兄弟 珍サーカス」(1939年)
                 オススメ度★★★★−
この作品も結構好き。小人の部屋で次々と葉巻を差し出すチコ。
お前の頭はボーリングのボールかよ!
チコとハーポがゴライアスの部屋で巻き起こすドタバタ、「リディア」の歌と踊り、
そしてあのハーポが「声」を発する!?
「まるで台風だよ!」   

「マルクスの二挺拳銃」(1940年)
                     オススメ度★★★★−
冒頭でチコ&ハーポに身ぐるみ剥がされるグルーチョが笑える。
ラストの汽車ブチ壊しギャグは、キートンの二番煎じとはいえ激アツい。
ただ、ハーポでさえこの頃のスタントシーンは替え玉使ってるんだよなー。

「マルクス兄弟 デパート騒動」(1941年)
               オススメ度★★★☆−
チコとグルーチョにどこかやる気が感じられないのが悲しい。
でもハーポは相変わらず楽しそうだ。三面鏡に3人のハーポが映る、ハープの演奏シーンがいい。
チコとハーポ、2人のピアノ演奏の楽しそうなこと!

「マルクス捕物帖」(1946年)
                        オススメ度★★★★−
有名な、ハーポの建物倒壊ギャグはこの作品の冒頭にある。
仕舞っても仕舞っても片付かない荷物・・・。この場面が一番面白い。
ハーポがすごく老けたのが印象的だった。なんか髪短いし。
逆にチコは何年たっても変わらないなぁ・・・。

「ラブ・ハッピー」(1949年)
                         オススメ度★★★★−
全編これハーポの独壇場。外見は老いたが中身は依然子供のまま。
グルーチョもチコも脇役に徹し、兄弟の作品とは言い難いがハーポ好きには堪らない1本。
ちなみに、無名時代のマリリン・モンローがチョイ役で出演している。
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